松山地方裁判所 昭和34年(行)5号 判決
愛媛県温泉郡睦野村大字睦月
原告
大西光子
松山市堀之内町
被告
松山税務署長
右指定代理人
菊池義夫
同
天野定義
同
真鍋一市
右当事者間の行政処分取消請求事件について、当裁判所は昭和三十四年十二月五日終結した口頭弁論に基き次の通り判決する。
主文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「被告が昭和三十四年五月二十五日にした原告の贈与税再調査願を棄却する旨の処分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、被告は原告が昭和三十二年一月訴外大西徳次郎から伊予鉄道株式会社の株券単価一〇八円のもの二五〇〇株合計金二七万円の贈与を受けたとして、原告の昭和三十二年度分贈与税につき昭和三十四年三月三十一日別表記載の如き更正処分をし、同日更正通知書を原告に送達した。しかしながら右株券は訴外大西徳次郎より贈与を受けたものではないので、原告は同年四月六日被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年五月二十五日原告の右請求を理由なしとして棄却し、同月二十七日その通知書が原告に送達された。右の如く被告のした再調査願を棄却した処分は事実の認定を誤つた違法な処分であるから、その取消を求めると述べ、被告の本案前の答弁に対し、原告は現在に至るまで前記再調査請求棄却処分に対し審査の請求をしていない事実はこれを認めると述べた。
被告指定代理人らは原告の訴を却下するとの判決を求め、本案前の答弁として、原告は被告のした前記再調査請求棄却の処分の通知書を昭和三十四年五月二十七日に受領しているに拘らず、これに対する審査の請求をしないまま相続税法第四五条所定の審査の請求期間である一カ月を徒過して現在に至つているものである。よつて本訴は相続税法第四十七条第一項本文により訴願前置の要件を欠いた不適法な訴であるから却下されるべきものであると述べ、
本案につき「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、」との判決を求め、答弁として原告主張の事実中原告主張の株券は原告が訴外大西徳次郎より贈与を受けたものではないとの点を除きすべてこれを認めるが、右株券は訴外大西徳次郎が昭和三十二年三月原告に贈与したものである。
即ち
一、原告は愛媛県温泉郡睦野村大字睦月農業大西作英の妻で無職である。
二、原告は昭和三十二年三月伊予鉄道株式会社の株券二、五〇〇株を取得したが、これは原告の父である訴外大西徳次郎が昭和三十二年三月十五日自己所有の右鉄道会社の株券一、一〇〇株を原告に贈与するとともに、同月二月二日訴外浜崎民子所有の右鉄道会社の株券一、四〇〇株を、訴外二浪証券株式会社を通じて原告に買い与えたものである。
三、したがつて右贈与株券二、五〇〇株を相続税法第二二条により贈与時の時価に評価すると、二七〇、〇〇〇円(一株一〇八円)となつて、相続税法第二一条の四(昭和二十八年法律第一六五号)の基礎控除額を超過するから、原告は同法第二八条第一項により昭和三十三年二月末日迄に被告に対し、右贈与財産について、贈与税の申告をなす義務を有していたこととなるのである。
四、しかるに原告は、右申告期限から一年を経過した昭和三十四年二月に至るも、なお無申告であつたので、被告は原告に対し右贈与財産について、相続税法第三〇条第一項による期限後申告をなすよう慫慂したところ、原告は、前記二浪証券株式会社より購入した株券一、四〇〇株は自己の所持金をもつて買入れたものである旨の全く事実に反する事実を固執して、当該贈与財産を除外した別表申告額欄のような過少な申告書を被告に提出した。
五、しかしながら原告は前記の如く無職であつて原告主張のような多額な現金を保有する筈もなく、又被告の調査によるも原告の右主張を裏付ける何等の根拠もなかったので、当然右株券一、四〇〇株は他のものと同様訴外大西徳次郎より贈与を受けたものと認めざるを得ないから、被告は原告の申告額に申告洩れの株券分十五万一千二百円を加算して別表更正額のとおり更正処分をなしたものである。
六、以上のとおりであつて被告のなした本件更正処分には何等違法な点は存しないからこれに対する原告の再調査請求を棄却した本件再調査決定もまた適法である。
と述べた。
理由
原告の本件再調査請求に対し被告が昭和三四年五月二五日これを理由がないとして棄却し、該決定の通知書が同月二七日原告に送達されたこと、これに対し原告は相続税法第四五条所定の審査の請求をしないまま同条所定の審査の請求期間である一ケ月を徒過し現在に至つていることは当事者に争のないところである。そうすると原告の本訴は相続税法第四七条第一項本文により訴願前置の要件を欠くものであるから不適法な訴として却下すべきものである。
よつて民訴法八九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 谷野英俊)
別表
〈省略〉